教育方針

週に30分だけ見かけるその子は、大抵泣いている。
今日もしゃくりあげている声が近づいてきたと思って顔を上げたら、その子だった。
「どうしたの?」って普通だったら聞くところだけど、聞けない。
どうしてだか、知ってるから。
後ろから歩いてくるのはお母さん。顔を見なくても、怒ってるのがわかる。


次男のピアノのレッスンを待つ30分間。
お兄さんのレッスンを待つその子とおかあさんと一緒になる。
たった30分の間に、その子に勉強をさせ、怒り、先生とお兄さんのピアノのコンテストについて相談し、電話で友だちと「大学に入るための秘訣」を語り合う。毎週、毎週、毎週、毎週、毎週。
お兄さんもその子も小学生。


「600割る12は、どうやってやるの?」「先生はどういうふうに教えたの?」
英語で言っている声がさらに怖くなっていき、さすがに私の手前か中国語にかわる。
言っていることがわからないから、さらに怖く私には聞こえる。
いつだったかは、一つ問題を出して答えられないたびに、腕立て伏せを数回ずつやらせていた。


そうそう、いつだったかは楽譜を一つ家に置いてきたとかで、その時の怒りようもすごかった。
次男なんて「ママぁ、忘れて来ちゃったから、ちょっと取ってきて。」なんて気軽に言って、
「今度忘れたら取りにいかないからね。」と一回目なら言われている程度のこと。
私も怒る時は怖い。勉強をさぼったらすごく怒る。
でも会うたびに怒っているあのお母さんのパワーは私にはない。
真似するつもりもないし真似もできない。
あの人はあの人なりに、あれが愛情のかけ方なんだろう。


いくら書いても、あの場の怖さは表現できない。
いつか顔を上げて言ってしまいそうだ。
「怖すぎです。」って。


次男のレッスン後
み「あのお母さん、今日も怖くて、あの子、今日も泣いてたよ。」
次「あの子、どうして逃げないのかなぁ。」
み「逃げるところがないんじゃないの。」
次「お父さんはどうしてるのかな。」
み「そうだねぇ。」
次「お父さんも怖いのかな。」